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Nov 28, 2016

DIARY INTERVIEW 03

『この家がおしえてくれること』

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10月にはいりずいぶん涼しくなってきたと思っていたら、よりによってこの日は夏に逆戻りしたような暑さ。
今回伺ったのは唐津市のTさんご夫婦の住まい。
Tさん宅にはエアコンがないことを知っていたので、覚悟して訪ねることに。
猛暑日の続いた今年の夏、エアコンなしでどう過ごされたのでしょう。

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Tさんは11年前に築80年超の古家を購入し、ほとんど手を入れずに暮らされています。
それは家に費用をかけないという考えではなく、そのまま暮らしたいという思いから。
さほど手を入れなくていいほど状態が良かったこともあるのですが、縁も所縁もない家にここまで愛着がわくものなのかと思うほどこの家への思いが深く、この家から暮らし方を教えてもらっているとおっしゃる2人の暮らしの視点に はっと 気づかされることばかり。

 

2年前はじめてご自宅に伺った際、想像していた古家とは違いその雰囲気に魅了されている私を、要件を後回しに隅々まで案内してくださいました。
真っ先に案内してくださったのは浴室。私がタイルに気をとられていると、天井木板の一部をスライドし、屋根裏に隠れた換気口をみせてくださいました。夏は涼しく、冬は蒸気が逃げない"見えない仕掛け" に粋だなぁと思っていたら、他にも建具、引き手、欄間などなど装飾と機能を兼ねそろえたデザインがこの家の随所にみられ、そのひとつひとつを「良い」と実感しながら暮らされています。
中でもいちばんデザインされていると感じたのは窓。ガラスの種類も目線を意識し場所ごとにデザインされているよう。

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陽が入りはじめた縁側をみて「そろそろかな」とご主人。
毎日縁側に布団を干すのが日課で、はいりこんだ陽が畳まで伸びずぴたりと縁側でとまる様子や、寝室側の梅の木が夏は木陰に、冬には葉が落ちてたっぷりと部屋に陽が入る様子、庭の木の葉のかげがキラキラと部屋の壁にうつる様子などなどこの家がつくるひとつひとつの景色と職人さんの塩梅がたまらないと奥様。
寝室の雨戸下部が一部網戸になっているため夏の夜も、たまの扇風機で乗り切れたそう。

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『歴史を買う』

春にはおもわず立ち止まってしまう美しい桜の木のある庭で、散歩中に見つけた小さな貼紙がこの家との出会い。
売主の方はこの家を大事に引き継いでくれる人にしか譲れないと、市場には出ていない物件で、その控えめな貼紙は次の住人にぴったりの2人の目にとまりました。
元々古家が好きでいろいろな家を見てこられたTさん。もちろんただ古ければいいというわけではなく、気持ちいいと感じたことが決め手。
古家とはいえ状態も立地条件もよく、価値の高い物件だったとおもうけれどこの家のためならなんとかなる!と決断。
「なるべく電気を使わず、モノも買わない」とおっしゃる通りスッキリとモノが少なくてとても潔い室内。
変なものを置くと違和感があるからと、家具もこの家の縁側にピッタリなベンチが増えたくらいで、あとは家を夏仕様にするための簾戸(すど)を求め古道具屋を巡っているそう。

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例えクモの巣が張っていても、ガンガン張って蚊を捕まえて!と思うくらい気にしないと奥様。もちろんクモの巣が張っているわけでも、汚れているわけでもない。むしろ逆で、タイル貼りの風呂場や手洗、浴室天井の木板、しっくい壁や木建具などがとてもきれいなのは、きっと"残すため"に大事に使い続けてあるから。
元々貯蔵庫だったと思われる北側の収納には、今もTさん手づくり味噌や庭で収穫した梅でつくった梅酒を保存して活用。
なぜこれがこうなっているのか、ひょっとしてこうするためのものだったのかと、当時の家づくりや職人さんの知恵に暮らしながら気付くたびに自分たちがこの家に馴染んできたと感じると、この古家への思いを嬉々として語ってくださったお2人に古家ならではの不満、不便さの問いは愚問。

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『わたしがこの古家から教えてもらったこと』

暑さを覚悟して家の門を開けたものの、室内は窓が開け放たれ風通しがよく、最後に中庭に出るまですっかり暑さを忘れていました。大げさではなく。
きっとそれは玄関までの少しの距離を庭の木陰で涼むことができたから。
この"仕掛け"に気付いて膝を打つ感覚、その数だけ家に愛着がわいていくのかもしれない。そしてTさんからは、家を自分の暮らしに合わせるのではなく、家に自分の暮らし方を合わせるヒントをもらいました。

 

11月初旬には「唐津くんち」で年いちばんの盛り上がりを見せる地区。その前に庭の剪定をされる予定。
年々変化する街並みの中、この古家が唐津くんちでにぎわう街並みのひとつとして長年変わらずあるということを思うと感慨深い。
家も庭も手入れが不可欠。街並みは"残したい"という思いで守られていて、"変える"ことよりうんと難しいと教えてもらった。

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Text&Photo_Miho Narimura  (H28.10.3)


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