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Nov 2, 2015

DIARY INTERVIEW 01 

『便利な現代社会にくるりと背を向け手間のかかる暮らしを選ばれた前崎さんの住まい』

 

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『築150年の古民家に暮らす』

境界の検討がつかないほど広い間口に立派な門構え、目の前には稲がきれいに色づいた田んぼ、背後には森が広がり遠目からは姿が見えない築150年の古民家に、デザイナーの前崎さんはピラティスの教室を主宰されている奥様歩美さんとお子さんのご家族4人でお住まいです。

もともと街よりも自然のある暮らしがしたいと7年間家を探されるもいい物件に出会えず、マンションの仮契約までいった時にこの家と出会い10年間の定期借款契約をされました。15年空き家だった築150年の古民家を住める状態にするにはかなりの手間と費用がかかり、未だ手つかずの部屋や台風による雨漏りなどの維持費、湿気問題などまだまだ解決すべき問題は多い様子。

自然に囲まれた古民家暮らしと聞くとゆったりしたスローライフを想像しがちですが、以前梅雨時にお会いした時前崎さんが家の湿気対策がうまくいかず体調を崩されていて、つい「引越した方が・・・」と思ったこともあるほど想像よりハードな現実と向き合われているよう。にもかかわらず、なぜか暮らしについて語る前崎さんはいつも楽しそうで、今回じっくりお話しを伺うべくご自宅でインタビューさせていただきました。

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10年間経験にお金を払っているつもりで、そして仕事につなげる 

DIARYのロゴやブランディングでお世話になっていて、ブランドづくりのお仕事で幅広い活躍をされている前崎さん。意外にも以前のマンション暮らしでデザインの仕事に限界を感じはじめ、目先のことだけではなく将来のことを考え仕事も暮らしも両立したいと思ったことが引越しを考えるきっかけだったそう。

こちらに引っ越して3年目を迎えられましたが、後悔や引越したいと思ったことは?という質問に「一度もない」と前崎さんご夫婦。
以前は暮らしを見せたくなかったので家に人を招くことがなかったそうですが、今は友人を招いたり、イベントを開催されたり人との縁をつなぐ交流の場に。

しかしどんなに改修費をかけ、手をいれても自分の家になるわけではない10年借地契約ということに迷いはなかったのでしょうか?
「もともとこの家を所有したいという欲がなく家賃を安くしてもらった分、初期投資は10年間の家賃と考え、経験にお金を払っているつもりでここでの暮らしを仕事につなげようと考えた」と前崎さん。
住み手がない古民家がただ朽ち果てていくのは惜しく、この家のように年月が感じられ今つくることが難しい家に魅力を感じていたそう。

家具やインテリア、器、オブジェなどは手仕事のぬくもりが感じられるものが多く、家に合わせて揃えられたのかと思いきや持ち物は前の住まいからほとんど変わっていなく「ここでは自分の好きなものを飾る場所があり、そしてどこに置いても映えるので楽しく、花も飾りたいと思うようになった」と歩美さん。

 

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『 全て手間がかかるくらし 

「周りの木をだいぶ切った」といわれてもピンとこないほど現在も木々に囲まれていますが、当初は家に光が届かないほどで今も裏庭の水はけが悪くてボウフラがわき、湿気がひどいので裏の竹林を切り開かないといけないそう。けれど木を切ると家に光が届き、風が通る代わりに雑草がぐんぐん育つので今度は草刈りが追いつかず、まだまだ手をいれていかないといけないところは多いと前崎さん。

圧倒的な自然と静かさでゆっくりとした空気が流れていますが、先日の台風の影響で倒したという木の切株、庭に転がった丸太、薪棚に積み上げられた薪の量から薪割り、庭仕事の壮絶さが伝わってきます。
寒い時期を乗り越えるために必要な薪の量は私の想像をはるかに超え、割って乾燥するまでに時間がかかるため一年を通し家仕事の大半を占める薪仕事。
薪ストーブは「あたたかくするための工程が好きで『石油ではなく体を動かし燃料の薪を手に入れる』と便利なものを断つことで『生きている』感じがしてきた」と歩美さんがなによりも優先してつけられた。

 

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『Lunch Time』
お話しを伺っているとあっという間にお昼の時間に。仕事で家にいるときは昼食をつくられるという前崎さんが準備に取り掛かられると、歩美さんはバジルをとりに庭へ。飲料水は炭酸水システムでつくった炭酸水を。いただいたお料理はどれも美味しく、素材や器、過程、空間、並んでキッチンに立たれているお2人の素敵な雰囲気から「食」も大切に楽しまれていることが伝わります。

 

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『 子供たちに原風景を 』

庭でトンボを発見。こんなに赤いトンボをみたのは初めて!ここでの暮らしは日々気付きや驚きが多そうですね。お子さんたちは引越してきてどうですか?
「子供たちは以前のマンションがいいということもあるけれど、知ろうとしないと知ることができない森の仕組みなどを伝えたいし、子供たちには原風景がある暮らしをさせたい。ここでの暮らしは思うようにいかないことが多いけれどそれを受け入れると、薪にする木やおひさまがでた時、湿気で大変な梅雨が明けた時などの喜びが大きくより自然に感謝することが多くなった。」
庭には拾ってきた木や栗で遊んでいる形跡があり、お子さんたちも自然のある暮らしを楽しんでいるようす。

 

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『 この暮らしを特別扱いされるのが変 』

2階は家族並んで使えるデスクが置かれ、少しづつ手を入れられている書斎スペース。窓からは下屋の瓦を歩く野生のアライグマと目が合うことも。
庭に面した広間でピラティスの教室をされている歩美さん。しゃんと背筋が伸びるような、心地よい空気が漂っています。

「よく古民家暮らしなんていうとゆっくりできていいな~と言われるけれど、生活のことで一日が終わるので全然ゆっくりできていないんです!2年たってようやく趣味の映画鑑賞の時間がとれるようになった」と忙しい日々を過ごされているのにそれを感じさせない大らかな人柄!
まだまだやらないといけない家のことの他にも、今後井戸が涸れたりご近所の世代が変わったりという将来の心配もあると話すお2人からは困惑や不安ではなく、クリアする道を切り開き淡々と進むといった力の入りすぎない姿勢に私はガツンと衝撃をうけました。

 

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『 簡単に住むと簡単に済ませるように 』 

きっとこの家に訪れた人はこんな暮らしたいとあこがれるはずで、私もその一人。はじめは無理かなぁと思っていた虫や湿気問題も問題ないと思え、手間をかけて暮らすことの大切さと良さを知ることができました。

誰もが「こんな暮らしがしたい」と考えることはあっても前崎さんのように暮らし方と向き合い実現されている方は少ないのではないでしょうか。いかに楽に、時間と無駄を省くかに暮らしのベクトルを向ける現代。「簡単に住むと何でも簡単に済ませるようになる」ずしりとひびいた前崎さんご夫婦の言葉が私自身「どのような暮らしがしたいのか?」という問いのヒントになりました。そして何より前崎さんご家族が素敵で家族っていいな~と「家族」について考えるきっかけにもなりました!

この度は、取材を快諾してくださりお忙しいなかお付き合い頂きましてありがとうございました。
前崎さんのHP「SYU Life style」ブログで日々の暮らしのことを発信されているので是非ご覧ください!

 


 

《前崎成一・歩美さんのプロフィール》
前崎成一
1978年福岡県生まれ。「デザインは友を呼ぶ」をテーマに、その人らしい在り方や働き方を共に考え、出会うべき人に出会える姿にしていくブランディング・ディレクター。2013年より、広大な森付きの築150年の古屋敷で宿借生活を始め、暮らし働き生きる事を模索中。http://syu-design.com

前崎歩美
1978年大分県生まれ。結婚後趣味で始めたピラティスは、体だけで無く、心、思考の変化をももたらしてくれる事に気付く。現在自宅で少人数制の教室を開催。
「意識にアプローチするピラティス」を目指し、レッスンを行っている。http://pilates-haku.com

 

Text&Photo_Miho Narimura  (H27.9.9)


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